忘れないうちに、書いておこうと思います。
生後2ヶ月が終わりに差しかかったころの、ある朝のことです。
妻はまだ眠っていて、私が息子のお世話当番でした。授乳のあと、息子をリビングに連れてきてバウンサーに寝かせました。窓の外はまだ薄曇りで、春の朝の光がゆっくりとカーテン越しに差し込んでいました。
私はとなりに座って、何気なく息子の顔をのぞき込みました。疲れた目で、ただぼんやりと「今日も元気そうだな」と思いながら。
そのとき。
息子が、にっ、と笑いました。
口の端がきゅっと持ち上がり、目がほんの少し細くなりました。声はなく、ただその顔だけが。でもそれは確かに、笑顔でした。
「え——」
声が出ませんでした。もう一度のぞき込むと、また笑いました。今度は少し大きく、ゆっくりと。
なんだろう、この感じ。
泣きそう、というのとも少し違う。胸の奥がじわっと温かくなって、何も考えられなくなって、ただその顔をずっと見ていました。
後から調べると、生後2ヶ月ごろに赤ちゃんが見せ始める笑顔のことを**「社会的微笑(しゃかいてきびしょう)」**と呼ぶそうです。
新生児のころにも笑ったような表情をすることがありますが、あれは「新生児微笑」と呼ばれ、顔の筋肉が反射的に動いているだけで、感情とは関係がないとされています。
生後2〜3ヶ月になると、脳の発達が進み、人の顔を認識して反応できるようになります。そのとき見せる笑顔が「社会的微笑」——つまり、周囲の人間に対してコミュニケーションとして向けられる、初めての本物の笑顔です。
鍼灸師として体の発達に興味を持っている私でも、わが子のそれを目の前で見たとき、知識は一切関係なくなりました。「社会的微笑」なんて言葉は、あの瞬間の前では何の意味も持ちませんでした。
ただ、息子が笑った。それだけでした。
あの朝まで、正直なところかなりきつかったです。
夜中に2〜3時間おきに起きて、あやして、授乳して(妻が)、ゲップさせて、また寝かしつけて。私は授乳こそできませんが、その前後のお世話は分担していました。
昼も夜もない感覚で、何日も経っていました。整骨院の仕事中にうとうとしそうになったこともありました。「自分は育児に向いていないんじゃないか」と弱気になった夜もありました。
それが、あの笑顔の一瞬で——全部、どこかへ行きました。
大げさに聞こえるかもしれませんが、本当にそうでした。この2ヶ月間の夜中のあれこれが、霧が晴れるみたいに遠くなって、目の前の息子の顔だけが鮮明になりました。
「あ、そうか。こういうことのために、やってたんだな」
そう思いました。
もし今、育児の大変さの真っただ中にいる方がいたら、伝えたいことがあります。
今は見えなくても、必ずあの瞬間が来ます。
笑顔かもしれないし、初めて名前を呼んだような声かもしれないし、手を握り返してきた感覚かもしれない。どんな形であれ、「あ、この子はここにいるんだ」と全身で感じられる瞬間が、必ず来ます。
そしてその瞬間は、きっと今の大変さを帳消しにして余りあります。
あなたのお子さんの「初めての笑顔」はどんな瞬間でしたか?
よかったらコメントや問い合わせフォームで教えてください。ひとりひとりの話を聞きたいと、本当に思っています。